先日の記事から時間が空きましたが、プラットフォーマー銘柄に対する私見を個別銘柄に落とし込んで書いてみたいと思っています。
前回の記事でお伝えした結論の一つとして
国内ではGAFAのようなマルチプラットフォーマーは存在しない
ということでした。
ただ、一定分野に特化した形の「ニッチプラットフォーマー」はいくつか存在しています。
その代表格かつ、私の主力株でもあるのがエムスリーです。
Q:どんなビジネスモデル?
A:医療従事者を対象とした医療ポータルサイト「m3.com」のサービスを行っている企業。
国内30万人いる医師の約80%、25万人以上を会員として抱えており医者のための「Yahoo!」といってもいいかもしれません。
この強固な医師のDBを元に、製薬会社のMRに代わるマーケティング支援(MR君)やキャリア支援、治験支援などを展開しています。
Q:どの点がプラットフォーマー?
先日の記事で私が定義したプラットフォーマーは以下の通りです。各項目ごとに照らし合わせてみたいと思います。
>1、オンライン上で顧客同士を結びつける事業モデルがあること
→今回でいうとm3.comというポータルサイトを通じて囲い込んだ「医者」と「製薬会社はじめ医者に売り込みたい人」を結び付けています。工場設備や不動産など大きな固定資産を保有せずに展開できるビジネスモデルですね。
>2、Win-Winの構図になっている
→例えば、医薬品のマーケティング支援をとって説明すると
【今まで】MR(営業)が病院の医者のもとへ出向いて、医薬品を取り扱ってもらうための営業を実施。だが、医師への手厚い接待のために医薬品販売のコストの多くをこの営業費用が占めていた。
【こう変えた】MRという「人が場所に出向いて、コストをかけて営業する手法」をプラットフォームを用意して効率的に結びつけることを実現。結果、製薬会社は費用をかけずに効率的に医薬品を売ることができる。
医者は忙しい時間の合間を彼らのサービスを通じて効率的に情報収集できる。よって双方Win-Winですね。
>3、ほぼその事業領域で独占的な地位を獲得している
→前掲の通り、国内の医師の80%が会員登録しているプラットフォームです。つまり、登録していないほうが「異例」の状態なので医師が活動するうえで必須に近い状態を生み出せているということが大きいですね。
私がそのうえでプラットフォーマー銘柄に投資するうえで重要なのが以下のポイントをどれだけ深く満たしているかということです。
・抱え込まれた負が大きければ大きいほどいい
・独占的な地位からくる圧倒的な利益率
・データを元に事業の水平・垂直展開が行えている
エムスリーはまさにお手本のように、上記のポイントを満たしているところが私が主力にしている理由です。
一つ一つ見ていくと
◆抱え込まれた負が大きければ大きいほどいい
→先ほどのビジネスモデルで伝えた通り、MR営業の非効率さは各企業ごとの問題というより製薬業界が抱える構造的な問題でした。
実際に以下がエムスリーの決算資料によく使われているグラフです。
これだけのコストをかけていること自体がまさに「負」ということです。
さらに、近年はブロックバスターと呼ばれる大型の医薬品の開発が少なくなってきており、各企業は今まで以上に開発費用をかけて、ニッチな分野の医薬品を作らざるを得なくなってきています。
製薬会社の大型M&Aが常態化するのは上記の理由が大きいところです。
したがって、昔に比べてもっとマーケティング費用を抑えて見合う利益を出す必要が出てきているという背景もあります。
もっともこの点はエムスリーについては良い面と悪い面があります。
コストを圧縮して利益を出すということはMRに比べて優位性があるため、採用されやすいですが、一方でそもそものマーケティングコストを抑える必要が出てきているからです。
ここまでは簡単に想像がつくのですが、ここから先がエムスリーのしっかりしたところでマーケット分析が的確です。
以下がエムスリーの製薬マーケティング支援の市場分析です。
逆に言えばそれ以上のリソースは割かないと理解していることが企業としての優秀さを感じます。個人的には社数の拡大は難しいと見ていますが、一方で1社あたりの売上はまだ深耕のしがいがあるように思えます。
◆独占的な地位からくる圧倒的な利益率
同社の営業利益率は直近で27.2%、ROEは19.9%と高水準です。ROEについては自己資本比率71.8%でこの数字は驚異的な数字といえます。
それを実現しているのはやはり独占的なプラットフォーマーの位置を確立しているからだと思います。。
つまり「安売りしなくとも、買い手が必要だと思うから設定した値段で買う」という、当たり前のことですが、価格交渉力が強いということを表しています。医者の8割のDBがあるのに使わないという選択肢は考えられないという、業界での構造を作り上げていることが大きな要因です。
◆データを元に事業の水平・垂直展開が行えている
プラットフォーマーの宿命はその池の中の魚を食い尽くすことが遅かれ早かれ来てしまうということです。
そして残り数匹になった時の食べるためのコストが大きくかかるようになるということです。
エムスリーの場合は国内の製薬会社のほとんどがMR君を使う状況になってくると次の「飯のタネ」を探す必要が出てきます。
実際に彼らはそれをよくわかっていて医者と製薬会社の間を取り持つ、という従来のリボンモデルを派生させています。
具体的にはキャリア支援(医師や薬剤師の転職支援)や製薬会社の業務アウトソースの流れを受けて治験支援など従来のDBにいる彼らが「次に困っていること」をどんどん新規事業として立ち上げています。
一言で言うと、新規事業を既存に重ねること(垂直展開)で成長していく形です。
そして、従来のメディカルプラットフォームも国内だけでなく海外にも展開(水平展開)しています。
ビジネスモデル自体が秀逸かつ、構造的に強固なため文化や商習慣の違いはあれど一定の地域で手堅く成功を収めています。
というように、私見ではありますが完璧に近い事業戦略を着実に実施しているというところに好感が持てます。
一方、プラットフォーマーとしての投資の罠で陥りやすいのが
①実は「なんちゃってプラットフォーマー」でそれほどの企業じゃなかった
②既にピークは過ぎており、これから株価が上がる可能性が見込めない
という点です。
既に①については、上記ポイントをしっかり見極めるだけである程度避けることは簡単にできるかと思います。
②について、私が意識しているのがどのフェーズにそのプラットフォーマーがいるかということです。
エムスリーを例にとると
フェーズ1【プラットフォーマー確立】 →医師に取って欠かせない場に
フェーズ2【垂直展開】 →治験やキャリア支援などDBをテコに展開
フェーズ3【水平展開】 →成功したビジネスモデルを海外展開
フェーズ4【投資事業】 →得た知見とキャッシュで高利益な業界VCに
個人的にはプラットフォーマーが行き着くのは【投資事業】だと思っています。ソフトバンクも通信事業から完全に脱皮して、今や投資が本業です。
理由としては高シェアの本業が成長→成熟フェーズに来ると企業戦略論上「金の成る木」あるいは「キャッシュカウ」といわれる、投資以上にキャッシュが生み出される利益の泉となります。
プラットフォーマーについても、このキャッシュを元に垂直・水平展開を行い、時には買収して足りないポートフォリオを買っていきます。
つまり、金のなる木を元に花形事業を育てるということを行うわけです。
実際にエムスリーの海外メディカルプラットフォーム事業は買収でそろえたものも多いです。
そして、ある程度行き着くと一番利益率の高いという理由で自己資本による投資事業がゴールとして見えてきます。
エムスリーについてもベンチャー投資会社を立ち上げ、人工心臓や医療AIといった本業に近しい分野で投資を行っています。
この投資の強みはもちろん、祖業で培った業界知識やネットワークです。
これがあるからこそ、投資先の技術の強みが理解でき、投資先も出資を受け入れてくれるわけです。
エムスリーに対する私見としては、垂直展開の新規事業は徐々に成長率が頭打ちのフェーズへ。
それに先手を打つかのように、インキュベーション(投資)事業で次のビジネスの種と利益を生み出そうと試みているフェーズとみています。
したがって、中期ではまだ高成長が続くものとみていますが投資事業や新規事業の成長率については、各決算ごとにしっかりと数字と進捗を見る必要があると思います。
以上、長文になりましたが上記の理由で主力として引き続きホールド、買い増しを考えている銘柄です。
このシナリオが崩れない限りは、強い銘柄かと思っています。
あらためて、GAFAの超巨大プラットフォーマーは20年で400倍の株価成長率です(ex:Amazon)
少なくともテンバガーの可能性はまだまだある銘柄だと思っていますので安い時に買う、というシンプルな投資を心がけたいと思います。
他の銘柄はまた別の機会に。